相続人 :配偶者と長男の2人
財産規模 :十数億円 地主(資産の大部分が不動産でキャッシュがほとんどない)
家族構成等:被相続人と配偶者、長男家族が同居
効果 :相続税の圧縮(被相続人と配偶者の相続税トータルで1億円超の負担軽減)
事例の概要
被相続人が亡くなり相続が開始。財産は十数億円規模で、その大半が先祖代々引き継いできた不動産(自宅敷地・貸宅地・賃貸物件等)でした。一方、現預金は少なく、相続税の納税資金を確保するためには複数の不動産売却が避けられない状況でした。
ご家族の希望は「自宅は代々引き継いでいきたい」、「そのほかの不動産もできる限り手放さず、代々承継していきたい」というもの。
そこで、配偶者居住権の活用と、遺産の取得割合の最適化(将来の配偶者の税額の試算とそれまでに行える対策の検討)を行い、納税負担の大幅な圧縮と売却不動産の最小化を図りました。
ご相談時点の状況
背景)
・被相続人は87歳、配偶者は82歳、長男は55歳。
・先祖代々引き継いできた不動産を可能な限り今後も承継していきたい。
・財産の大部分が不動産で、納税に充てられるキャッシュがない。
状況と問題点)
・相続税の納税資金が不足し、所有している不動産をいくつも売却しないと納税が困難
・どの不動産を残し、どれを手放すべきかの優先順位が整理できていない
・配偶者の税額軽減の規定により、配偶者が1/2以上取得することで今回の税額が抑えられるが、配偶者の取得割合が増えると配偶者の相続の際の相続税が増える
【配偶者の税額軽減について】 配偶者の税額軽減とは、被相続人の配偶者が取得した財産について、次のAとBのいずれか多い金額までの相続税が課されない制度です。 A:配偶者の法定相続分相当額(相続人が配偶者と子の場合は1 / 2 ) 今回はAの金額の方が多くなるため、配偶者は遺産全体の1/2までは相続税がかかりません。 |
解決までの道のり
当法人からのご提案)
状況を踏まえて、3つの視点からご提案をしました。
提案1)配偶者居住権を活用し、今回の相続税を抑え、かつ、将来の相続税の負担も軽減
配偶者居住権とは、自宅に住む配偶者に「住む権利(居住権)」を、「それ以外の権利(所有権)」はその他の相続人が取得するという制度です。
まず、配偶者は最期まで自宅の居住する意思があり、長男もそれを同意していました。
そのため、配偶者居住権を活用することをご提案いたしました。
税金の計算上では、自宅の評価額を居住権部分と所有権部分に分け、居住権部分を配偶者が所有権部分を長男が取得するものとして計算します。
配偶者が取得する財産の全体が遺産のうち1/2以下であれば配偶者軽減の規定によりこの居住権部分について相続税が発生しません。
また、配偶者が亡くなるまで配偶者居住権を保有している場合は、死亡と同時に権利が消滅するため相続税が課されません。との自宅の権利をすべて所有者である長男が保有することになります。
提案2)配偶者の相続時の相続税も踏まえたシミュレーションの提示
状況と問題点で記載した通り、配偶者の税額軽減の規定により、1/2までは配偶者の取得割合が増えるにつれ相続税の負担が抑えられます。しかし、配偶者の取得割合が増えると配偶者の相続の際の相続税が増えることになります。
配偶者の相続の際の相続税まで含めてシミュレーションの結果、配偶者が全体の約30%取得するのが有利になるという結果になりました。
しかし、以下の理由から配偶者が40%ほど取得するのが良いとご提案いたしました。
・配偶者がまだお元気で相続対策が可能
・相続対策が全くできなかったとしても約40%までは約30%取得した場合と金額の差がほとんどない
そのメリットは以下の2つです。
メリット1 今回納税する相続税の負担が数千万円軽減できる。(遅らせることができる)
軽減した税額は、基本的に配偶者の相続の時の相続税で支払うことになりますが、今回払う必要がなくなるためキャッシュフローが改善されます。
メリット2 配偶者の相続対策の効果が増える。
相続税は財産が多い人ほど税率が高くなります。そのため、財産が多いほど対策の効果が表れます。配偶者の取得する財産が多いということはその分これから実施する相続対策の効果が増えます。
つまり、一定以上の対策が実現できれば、約40%にした方が約30%にするよりも最終的な税負担が軽減されることになります。
提案3)長男と配偶者が取得する具体的な財産を整理
配偶者が取得した方がいい財産と長男が取得した方がいい財産を整理しました。
種類で区分すると以下の通りです。
・やむを得ず売却する不動産 → 長男(納税資金の確保)
※配偶者は配偶者軽減の適用により税額は0円
・配偶者の相続の際に小規模宅地等の特例の適用を受けたい不動産 → 配偶者
・維持管理に費用がかかる財産や収入があまり生じない財産 → 配偶者(配偶者の将来の資産増加を抑えるため)
・その他の賃料などの収入を生む財産 → 長男
【小規模宅地等について】 小規模宅地等の特例とは、被相続人などが『居住していた自宅の敷地』や『賃料収入を得ていた建物の敷地』など一定の要件を満たす土地の評価額を80%(ご自宅など)又は50%(賃貸物件など)減額できる特例です。 また、適用が受けられる土地の面積に限度があります。この限度面積は相続の都度判定することになります。 今回のケースでは、80%の減額のため、配偶者居住権を設定した自宅の敷地について適用を受けるのが有利で自宅の敷地だけで限度面積まで達しておりました。 |
得られた結果
・配偶者の相続の際の相続税を見据えて相続税の負担を大幅に減額(1億円超の圧縮)
・それにより、売却しなければならない不動産を最小限とすることを実現
案件のポイント
・各種特例(配偶者居住権/小規模宅地等の特例/配偶者の税額軽減)などを組み合わせ、最大限の効果を得られるように検討を重ねた。
・必要な納税資金を抑えつつ、金額を明確にすることで必要最小限の不動産の売却にとどめることができた。
・相続税の納税期限が相続から10か月のため、不動産売却をその期間内に行う必要があり、期限が非常にタイトであった。

