
「何とか相続税の課税から逃れられないか」「シンガポール移住はどうだろうか?」
シンガポールには相続税(遺産税)がないため、移住を通じて相続税の回避を検討する方がたくさん居ます。
しかし実務上は「シンガポールに住めば相続税を回避できる」というほど単純な話ではありません。
日本の税制は年々複雑化しており、安易な移住には多くのリスクが潜んでいます。
本記事では、シンガポール移住について
相続税の回避要件
事例による相続税が課される・課されないケースのまとめ
シンガポール税制の魅力
節税するための4つの注意点
を税の専門家の視点を踏まえて詳しく解説します。
ぜひ記事を参考にシンガポール移住を検討してください。
目次
第1章:【結論】シンガポールへの移住は場合によっては相続税が回避可能
1-1シンガポールに移住すれば本当に相続税を避けられるのか?
結論から言えば、シンガポールに移住することで日本の相続税を回避できるケースはあります。
しかし、以下の3つの条件「①被相続人要件」「②相続人要件」「③財産要件」をすべて満たす必要があります。
【課税されない3条件】※いずれも日本国籍を所有している前提
| 条件 | 内容 |
| ① 被相続人が日本の非居住者 | 10年以内に国内に住所がない場合 |
| ② 相続人も日本の非居住者 | 10年以内に国内に住所がない場合 |
| ③ 財産がすべて海外にある | 日本に預金・不動産・株式など国内資産が一切存在しない |
つまり、具体的には相続開始時に以下のような状況が条件となります。
• 被相続人:シンガポールに永住権を取得し、10年超滞在している。
• 相続人:同様にシンガポールに永住権を取得し、10年超滞在している。
• 財産:すべてシンガポールの銀行口座、不動産、シンガポール法人の株式等で、日本国内資産がゼロ。
このようなケースであれば、日本の相続税は課されません。
1-2 シンガポール移住における3つの誤解
日本の相続税法の仕組みは、「被相続人の住所(居住実態)」だけではなく「相続人の住所(居住実態)」と「財産の所在」で課税可否が判断される点がポイントです。
以下のような誤解によって、課税リスク見誤る事例が多く見られます。
❌ 誤解1:「被相続人だけが移住すればよい」
→ 被相続人だけの移住では不十分です。相続人が日本に住んでいる場合、相続人が取得する全世界の財産が課税対象になります。
❌ 誤解2:「相続開始直前までに移住すればよい」
→「移住後も10年間は日本の相続税の課税対象になります。」
日本の相続税法では、被相続人又は相続人のいずれかが相続前10年以内に国内に住所がある場合には、相続時にシンガポールに在住していたとしても「居住者」と同様に扱われます。出国しても即座に免税とならないということです。
❌ 誤解3: 「日本に住民票を置いていなければ非居住者と認定される」
→ 税務上の「居住者」か否かは、実際の生活実態(生活の本拠)がどこにあるかで判定されます。たとえ住民票を抜いても、居住用不動産の有無、納税実績、職業、家族の生活状況なども含めて総合的に判断されるため「形式的な移住」として否認されるケースがあります。
【課税回避に向けて不可欠な4つの「実務要件」】
1. シンガポールにおける生活の本拠を客観的に構築する
→ 納税履歴、家族帯同、医療記録などが有効
2. 日本との経済的関係を遮断する
→ 日本企業との雇用関係、口座、証券口座、不動産などを整理
3. 相続人側の移住も同時並行で設計する
→ 相続人が日本在住の場合、被相続人が非居住者でも課税される
4. 10年を越える移住期間を確保する
→ 相続はいつ起きるかわからない。高齢になってからの移住では手遅れになる可能性が高い
【専門家の視点👉】
シンガポール移住での相続税回避は「実現可能だが、計画的である必要がある」
• シンガポールには「相続税が存在しない」という絶対的な魅力があります。
• 日本の相続税を回避するには、被相続人・相続人の両方が、税務上明確な非居住者である必要があります。
• 単なる形式的な移住や住民票の移動では不十分であり、生活・財産・家族関係まで含めた包括的な移住設計が求められます。
• 実務では「移住後10年超を経過」「相続人も同様に移住後10年超を経過」「日本財産ゼロ」というハードルを越えた場合のみ、初めて相続税の課税対象外となります。
第2章:シンガポール移住で相続税が課される・課されないケースのまとめ
2-1「課税されるかどうか」は組み合わせで決まる
前章で説明したとおり、日本の相続税がかかるかどうかは、以下3つの要素の組み合わせで決まります。
1. 被相続人の居住状況(出国10年超経過しているか)
2. 相続人の居住状況(出国10年超経過しているか)
3. 相続財産の所在地(日本国外にあるか)
この章ではケースごとに事例で相続税の課税要件をまとめます。
<相続税課税の一覧表>※各人日本国籍を有している前提
| 被相続人 | 相続人 | 財産所在地 | 相続税課税 |
| 非居住10年以下 | 非居住10年超 | 国外 | 全世界財産に課税 |
| 非居住10年超 | 日本居住 | 国外 | 全世界財産に課税 |
| 非居住10年超 | 非居住10年超 | 国内財産あり | 国内財産に課税 |
| 非居住10年超 | 非居住10年超 | 国外 | ❌ 課税なし |
| 日本居住 | 日本居住 | 国内外に財産あり | 全世界財産に課税 |
ケース1:被相続人が出国10年以下 → 相続税あり
事例
• 被相続人:2020年に日本を出国しシンガポールに移住
• 相続開始:2028年(出国から8年)
• 相続人:非居住者(シンガポール在住)
• 財産:すべてシンガポール所在
この場合、被相続人が「出国後10年超経過していない」ため、相続税法では日本の居住者とみなされ、相続人が非居住者であっても国外財産を含む全財産が課税対象となります。
ケース2:相続人が日本在住 → 相続税あり(国外財産含む)
事例
• 被相続人:シンガポールに15年居住(非居住者)
• 相続人:東京都在住の長男
• 財産:シンガポールの預金・不動産
この場合、相続人が日本の居住者であるため、被相続人が非居住者であっても、日本の相続税法の適用が及びます。相続人が取得する財産がすべて国外にあっても、日本で申告・納税が必要となります。
ケース3:日本国内に財産がある → 常に相続税課税
事例
• 被相続人:シンガポールに12年在住、非居住10年超
• 相続人:オーストラリアに12年在住、非居住10年超
• 財産:東京の不動産とシンガポールの預金
この場合、相続人・被相続人の双方が非居住者でも、日本国内にある「不動産」には相続税が課されます。所在地が日本である財産については、居住者・非居住者の区分にかかわらず課税されます。
ケース4:課税されないパターン
事例
• 被相続人:シンガポールで永住権を持ち、15年間生活
• 相続人:カナダで13年間生活しており、日本との関係なし
• 財産:すべてシンガポール国内に所在する現金・預金・不動産
このケースでは、次のすべてを満たしています:
• 被相続人 → 出国10年超・日本に帰国歴なし
• 相続人 → 出国10年超・日本での所得なし
• 財産 → 日本国内に一切なし
そのため、日本の相続税法の適用範囲外となり、申告納税義務は発生しません。
2-2 相続人が複数名いる場合の注意点
相続人の中に1人でも「日本居住者」が含まれると、その人が取得する相続分については、日本の相続税が課されます。
• 相続人A(海外居住):課税対象外
• 相続人B(日本居住):課税対象
相続人ごとに課税対象が分かれるということです。
この場合、申告納税義務も相続人Bのみに発生し、遺産分割協議や納税方法においても調整が必要です。
2-3 この章のまとめ
シンガポールでの相続税の課税可否は「誰が・どこに・何を」受け取るかで決まってきます。
まずはご自身の状況を正確に把握しておきましょう。
| 判断軸 | ポイント | 対応策 |
| 被相続人の居住状況 | 出国10年超経過が必要 | 早期移住+生活の本拠地移転 |
| 相続人の居住状況 | 日本居住者は課税対象 | 海外移住や贈与・信託も検討 |
| 財産の所在 | 日本にあれば必ず課税 | 財産の組替え・海外移管を検討 |
第3章:他国と比較したシンガポール税制の魅力とは
3-1 相続税・贈与税が「完全にゼロ」の国、シンガポール
シンガポールにおける最大の税制上の魅力は、相続税も贈与税も一切存在しないという点です。
もともとシンガポールには「遺産税(Estate Duty)」という制度がありましたが、2008年に完全廃止され、現在は死亡に伴う税金は一切課されていません。贈与についても同様で、生前贈与に対する課税制度もなく、富の移転そのものに課税されない構造が出来上がっています。
これは世界的にも非常に希少な制度設計であり、多くの富裕層や資産家、ファミリーオフィスが同国を資産保全の拠点とする大きな理由の一つとなっています。
3-2 所得税・法人税もフラットかつ低率
シンガポールの税制度のもう一つの特徴は、「フラットで低率な直接税制度」です。具体的には以下のような構成です。
| 税目 | シンガポール | 日本 |
| 相続税 | なし | 累進課税(最高55%) |
| 贈与税 | なし | 累進課税(最高55%) |
| 所得税(個人) | 累進課税(最高24%) | 累進課税(住民税と合わせて最高55%) |
| 法人税 | 一律17%(軽減措置あり) | 実効税率 約30% |
| キャピタルゲイン課税 | 原則なし | 上場株などにあり |
特に注目すべきは、キャピタルゲインに課税されない点です。
日本では、株式などの譲渡に譲渡益課税がかかるため、資産運用を重ねるほど税負担が増しますが、シンガポールでは運用による増加分には原則課税されません。
3-3 他国と比較しても際立つ「課税ゼロの強さ」
以下は、日本・シンガポール・他の主要国における相続税制度の比較です。
| 国名 | 相続税 | 贈与税 | 特徴 |
| 日本 | 最大55% | 最大55% | 居住歴と国籍で課税が決まる |
| シンガポール | なし | なし | キャピタルゲイン課税も原則なし |
| アメリカ | 連邦税 最大40% +州税あり | 基礎控除 年間18,000米ドル(2024年) | 市民権・居住で課税対象 |
| イギリス | 原則40% | 存命中の贈与も課税対象 | 原則7年以内の贈与は 相続税課税あり |
| カナダ | 相続税はなし だがみなし譲渡課税 | なし | 遺産全体にキャピタルゲイン課税 |
| オーストラリア | なし (贈与含めCGTで代替) | なし | 贈与時に譲渡益課税 |
このように、「相続・贈与・キャピタルゲインのすべてが非課税」という国は、世界的に見てもシンガポールと香港くらいであり、特にシンガポールは法制度・経済環境・インフラ整備・治安の安定性を兼ね備えている点で、極めて競争力の高い国といえます。
3-4 この章のまとめ
シンガポールは、相続税回避だけではない「制度的合理性」の国といえます。
シンガポールの魅力は、単に「税金がかからない」という理由だけではありません。以下の点で、資産承継・事業継続・国際的な活動に適した基盤が整っています
• 遺産税・贈与税ゼロで、承継コストが極小
• 税務・法務制度が整備されており、予測可能性が高い
• 英語圏であり、国際的な法制度・教育環境に優れる
• アジア中心にアクセスしやすく、日本からの距離も近い(時差は1時間)
第4章:シンガポール移住で相続税を節税するための4つの注意点
日本の相続税は世界的に見ても高水準であり、課税対象となる財産の範囲も広いため、富裕層を中心に「相続税対策としての海外移住」を検討するケースが増えています。
しかし、現行の相続税法および所得税法の制度設計上、単純に「住民票を抜いて海外に移住する」だけでは、日本の課税関係から逃れることはできません。形式的な移住や短期的な対策では不十分であり、制度を深く理解したうえで、長期的・実質的な戦略が求められます。
この章では、特に注意すべき以下の4つのポイントについて、制度的根拠と実務上のリスクを交えて解説します。
4-1 4つの注意点
① 10年以内に亡くなると課税される(出国後10年超ルール)
被相続人が出国後10年超を経過していない場合、日本の居住者とみなされ、海外にある財産であっても日本の相続税の課税対象となります。
【重要ポイント】
• 「非居住者」となるには、「出国後10年超経過」が絶対条件
• 10年以下で死亡した場合、海外移住していても全世界財産が課税対象になる
• 「一時帰国」などがあると10年カウントがリセットされるリスクもある
【対策】
• 早期に出国して10年をしっかり経過させること
• 日本国内に帰属しうる経済的拠点(家族、住居、収入源)がないよう整理
• 出国からの年次報告・出入国記録の保存
② 相続人が日本在住だと課税対象になる(相続人10年超ルール)
被相続人が出国後10年超を経過していても、相続人が日本に居住している場合、相続税の課税対象になります。
【よくある誤解】
「父は完全に海外永住していたから、日本の相続税は関係ないのでは?」
→ 相続人が日本居住である限り、日本ではその人の取得財産に課税できます。つまり、相続人ベースでも「10年超非居住」が要件となります。
【実務での注意点】
• 相続人が複数いて、1人でも日本居住者がいると、その人の分には課税
• 相続人が将来的に帰国する可能性がある場合もリスク要因
• 生前贈与・信託・持株会社スキームなどの併用を検討
③ 日本にある財産には必ず課税される(所在地課税)
「相続財産の所在地が日本にある場合、非居住者であっても課税される」
【該当する財産の例】
• 日本国内の不動産(マンション、土地、ビルなど)
• 日本の金融機関にある預貯金
• 日本企業の株式(非上場・上場問わず)
• 日本の生命保険会社の契約
【対策】
• 移住前に不動産や預金を海外移転または売却
• 海外信託やホールディングカンパニーによるスキーム構築(慎重な設計必要)
• 生命保険等は受取人の居住地も含め要チェック
④ 出国時に「出国税」がかかる場合あり(国外転出時課税)
2015年に創設された「国外転出時課税制度」により、一定の条件を満たす場合、出国時点で保有する有価証券等の含み益に対して所得税が課税されます。
【対象者】
• 有価証券等(上場株・非上場株・投資信託・デリバティブなど)を1億円以上保有
• 過去10年のうち5年超日本に居住していた人
• 出国により日本の居住者でなくなる人
【課税内容】
• 含み益に対して所得税(通常20.315%)
• 実際には売却していなくても、課税される
• 納税猶予制度あり
【注意点】
• 出国税の対象になるかどうか、資産評価の事前確認が必要
• 納税猶予制度を利用する場合でも、毎年の届出義務や担保提供などが必要
• 無申告や届出漏れがあった場合、重加算税・延滞税などのリスク
4-2 節税だけでなく「否認リスク」にも注意
「住民票を海外に移しただけ」では非居住者と認められないので、注意しましょう。
税務上の「非居住者」として扱ってもらうには、単に住民票を移すだけでは不十分です。
生活の本拠(住居・職業・医療・日常生活)がどこにあるかが重視され、形式的な移住と判断されれば、全世界の財産が課税対象になります。
<主な客観的事実>
以下の実態に基づいて総合的に判断されます。
• 住居の状況: 居住用不動産の有無、その利用状況(賃貸しているか、自己が居住しているかなど)。
• 職業: 事業活動の中心地、勤務地。
• 生計を共にする親族の居所: 配偶者やその他の扶養親族がどこに住んでいるか。
• 資産の所在: 主要な金融資産や不動産がどこにあるか。
• 納税実績: どの国で所得税やその他の税金を申告・納税しているか。
• 移動履歴: 国内外への出入国の頻度や滞在期間。
第5章 国際相続・贈与の相談は「税理士法人マインライフ」へ
贈与が国際間をまたぐものであるため手続きが複雑になるかもしれない・・・。
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第6章 まとめ
シンガポール移住で相続税を回避したいと考えるあなた。
しかし、制度・費用・生活・法務リスクを総合的に判断した結果、「実行しないほうが良い」ということは十分にあり得ます。また、せっかく要件を満たしても継続することができないケースも散見されます。
やむを得ず帰国せざるを得ない場合にも、帰国前に海外財産の生前贈与を検討するなど専門家へ相談することで相続対策が可能であったケースもあります。
国際相続はルールや手続きが複雑かつ難解です。国際相続に精通した税理士・弁護士になどに相談し、慎重に判断することが非常に大切です。
シンガポールへの移住をお考えの場合は、まずは専門家に相談し、戦略を立てた上で移住を実現してください。

