
物価の高騰が止まらない。
スーパーでの買い物、電気代やガス代の請求書…。
生活費がじわじわ増えているのに、手取りは変わらない。
そして、給与明細やボーナス明細をみると「こんなにたくさん引かれるのか」と感じませんか?
まだまだ子どもの学費もかかるのに大丈夫なのか??と不安になりますよね。
税金対策について耳にすることもあるけどよくわからなくて手が出せないという方も多いと思います。
しかし、実際に “払いすぎている税金”を抑えられる方法がいくつもあります。
そして、実は、一度実行してしまえば、そのまま継続、もしくは、毎年同じことをするだけで同じ効果が得られる対策が多いです。
対策している人としていない人で毎年数十万円の差が出てくることもあります。
この記事では、サラリーマンがおさえるべき節税策を整理し、「今年すぐにできること」から「将来の安心につながる仕組みづくり」まで、優先順位をつけて紹介します。
「どれから手をつければいいのか分からない」という方でも、この記事を読み終える頃には、あなた専用の“マイ節税プラン”が手に入ります。
少しでも早く、対策を実行し手取りアップを目指しましょう!!
税金対策はその人の状況にあったものや同じ対策をしても人によって効果が異なります。
まずは、どのような効果があるのかを理解するためにもサラリーマンが支払う税金の基本を簡単に確認しましょう。
第1章 サラリーマンの税金ってどうなってるの?
サラリーマンの税金は、図の流れで計算します。
納める税金が計算されるまでに控除できるものがいくつもあります。第2章以降で紹介する税金対策は控除の種類が違うのでどの控除なのかが分かると理解が深まります。

① 給与所得控除
給与所得控除とは、サラリーマンに認められたみなし経費です。
まず、所得税と住民税は“もうけ”にかかる税金です。
たとえば、ある八百屋さんの売上が1,000万円あったとします。
野菜の仕入れやお店の家賃などの経費に700万円使ったとしたら、残りの300万円が“もうけ”です。
所得税と住民税はこの“もうけ”の300万円に対してかかります。
サラリーマンもスーツ代や新聞代など仕事のためにお金を使いますが、1つ1つ経費を計算するのは大変です。そこで国が用意した制度が給与所得控除です。
「サラリーマンも仕事に必要なお金がかかるはずだから、実際に払っていなくても、収入に応じて“みなし経費”を差し引きますよ」という仕組みです。
控除の金額は収入に応じて自動的に決まっています。

年収500万円の場合
500万円×20%+44万円=144万円 になります。
なお、介護や子育て世帯の場合、上の表で計算する金額に加えて次の金額も控除することができます。
(給与等の収入金額(上限1,000万円)-850万円)×10%
年収900万円の場合(介護や子育て世帯)
195万円+(900万円-850万円)×10%=200万円
年収1,200万円の場合(介護や子育て世帯)
195万円+(1,000万円-850万円)×10%=210万円
給与所得控除は、年収に応じて自動的に決まり、意図的に操作できるものではないため、基本的に税金対策で活用するものではありません。
② 所得控除
所得控除とは、生活をしていく上で必要なお金には税金をかけないように控除してくれる仕組みです。
国民年金や健康保険料(社会保険料)の支払、家族を養うために必要な生活費、医療費がたくさんかかったなど、必要不可欠な費用については税金をかけないようにしてくれています。
~所得控除をお小遣いで考えてみる~
月のお小遣い:5万円
生活などで必ず出るお金 合計 3万円
・ ランチ代 : 1日1,000円 × 20日 =20,000円
・ 仕事上のコーヒー代 : 5,000円
・ スマホ代などの通信費 : 5,000円
残り(自由に使えるお金) 2万円
必ず出るお金の3万円を所得控除と考えると、お小遣い全体の5万円から3万円を控除した自由に使えるお金の2万円にのみ税金がかかるということです。
実際に自由に使えるからといって、お小遣いの2万円に税金がかかったら我慢なりませんが…。
ただ、この2万円、いや、お小遣いの5万円が税金を徴収された後の手取りの一部です。節税が成功すれば手取りが増え、この5万円のお小遣いも増えるはずです!!
所得控除を上手く使う(生活に必要なお金が多いと判断してもらう)ことにより税金を抑えることができます。
給与収入(年収)から給与所得控除、所得控除を控除した金額(課税所得)に定められた税率を乗じて税金を計算します。次は税率について説明します。
③ 税率
所得税
所得税は図のように、もうけが大きい人ほど税率が上がっていきます。
例:課税所得が500万円の人の場合
195万円×5%+(330万円−195万円)×10%+(500万円−330万円)×20%=572,500円
500万円すべてに20%をかけるのではなく、段階的に税率が適用されます。
また、②の所得控除は税率をかける前に控除するため、税率が高い人(所得が高い人)ほど節税の効果が大きくなります。
(例:100万円控除ができる場合、税率が20%なら20万円の効果、45%なら45万円の効果)

住民税
住民税は、「所得割(原則一律10%)」と「均等割(定額・数千円程度)」の2つで構成されます。
自治体の非課税要件に該当しない場合は、10%の所得割に均等割が加わります(均等割の金額は自治体により多少異なります)。
なお、住民税は前年の所得に基づき翌年度に課税されます。つまり、今年の収入に応じた住民税は来年徴収されるため、住民税の節税の効果は1年遅れて現れます。
④ 税額控除
税額控除は、税率を乗じて計算された税金の額から“そのまま差し引いて”くれます。
そのため、控除される金額が同額であれば、所得の高い人も低い人も同じ効果になります。
税額控除は、国がこういう行動をしてくれた人には応援したいという目的で作られています。つまり、国が行う税制支援と考えられます。
例えば、住宅ローン控除は住む家を買う人を応援する制度で年末のローン残高の0.7%(令和7年に居住開始の場合)を税金から控除してくれます。
いかがでしょうか?サラリーマンが納める税金について理解できましたか?
ざっくりで構いませんので計算構造(収入 → 控除 → 税率 → 税額控除の流れ)を理解し、次章の具体的な節税策を確認していきましょう。
第2章 サラリーマンが使える12の節税策【一覧表/チェックリスト】
まずは、節税策の一覧表をご覧ください。
それぞれの制度について、この一覧表をみながら第3章の各制度の解説をご確認ください。
対策したいと思う制度をチェックし、ご自身で必要な対策を記録しておきましょう。

【一覧表/チェックリスト】 【PDF ダウンロード用】
第3章 節税策の詳細内容
3-1 ふるさと納税 ★★★★★(特におすすめ)
ふるさと納税は、サラリーマンがすぐにできるおすすめの節税策です。
はっきり言って、やらないのはもったいないです。
具体的な内容について確認をしていきましょう。
3-1-1 ふるさと納税とは?
応援したい自治体に寄附すると、翌年の住民税や所得税が軽くなる制度です。
実質の自己負担は2,000円で、返礼品も受け取れます。
※その年の寄附は12/31までが対象(まだの方はお早めに)。
3-1-2 ポイント付与の禁止(令和7年10月以降)
寄附サイトのポイント付与が廃止されました。
これは、自己負担2,000円で返礼品がもらえるだけでなく、ポイントが付与されるのはお得すぎて制度のバランスが崩れるという指摘があったためです。
ポイント付与されなくなってもお得であることは変わりませんので、やる価値は十分にあるでしょう。
3-1-3 ふるさと納税の限度額
ふるさと納税の限度額とは、2,000円の自己負担額で自治体に寄付できる限度額のことです。
税金を多く納めている人ほどふるさと納税の限度額は増えます。
例えば、年収650万円/配偶者を扶養/子ども1人(16歳未満)場合の限度額は約7万円です。
同じ年収、家族構成でも他の控除の有無などによって限度額が異なります。ふるさと納税のサイトなどでご自身の限度額について細かく調べることができます。
必ず、ご自身の限度額を確認の上、実行しましょう。
限度額を超えてふるさと納税をすると、自己負担が2,000円でおさまらず負担額が増えてしまいます。
ふるさと納税をする方法はネットショッピングとほとんど同じで難しくありません。
なお、ふるさと納税の限度額が少ない人は、費用対効果を考えるとあまりお得にならない場合があります。
限度額内であれば、1万円の寄付額でも、10万円の寄付額でも自己負担の2,000円は変わりません。
1万円の寄付でもらえる返礼品と自己負担の2,000円を比べると高くつく場合もあります。
3-1-4 控除を受けるための2つの手続き
控除を受けるための手続きは、「ワンストップ特例」と「確定申告」の2つあります。
ワンストップ特例:その年の寄附先が5自治体以内。寄附時にもらう申請書を翌年 1/10必着で提出。
確定申告:寄附先が6自治体以上、または医療費控除などで申告する人。翌年3/15までに申告。
~返礼品選びのコツ~
冷凍品をまとめて頼むのはやめましょう。冷凍庫に入らなくなります。
冷凍庫に入らず、その日の夕食が決まってしまうことも・・・。
私はその経験を経て、返礼品は豪華な冷凍グルメではなく、米やトイレットペーパーやティッシュなどの生活必需品にして、浮いたお金で(ふるさと納税関係なく)食べたい時に豪華なグルメを食べます。
3-2 住宅ローン控除 ★★★★★(住宅購入を検討中の方、必見!!)
住宅ローン控除は控除額が大きく、家計への影響は年間数十万円にもなります。
マイホームを購入するか迷われている方は、この制度の有無で購入判断を左右する材料になるくらい大きな制度です。
3-2-1住宅ローンとは?
住宅ローン控除とは、ローンでのマイホームを買う人を国が後押しする税制優遇(第1章の④税額控除)です。
年末のローン残高×0.7%(令和7年に居住開始の場合の控除率で控除額には上限があります)をその年の所得税から直接差し引くことができます。
所得税で控除しきれない金額の一部は、翌年の住民税から控除することができます。
なお、控除の上限や適用できる年数については、購入する住宅の省エネ性や子育て世帯かどうかにより異なります。住宅の要件、控除率や控除上限については頻繁に改正が行われていますのでご注意ください。
控除率や上限などを下表に纏めました。(令和7年に居住開始した場合になります。)
※エネルギーは「エネルギー消費性能向上住宅」、特定エネルギーは「特定エネルギー消費性能向上住宅」の略です。認定住宅を含め、それぞれ一定の基準が設けられています。
子育て世帯とは、40歳未満の夫婦の方や19歳未満の子どもを扶養している世帯などです。
実際に適用を受ける場合には、細かな要件や基準が設けられておりますので事前によく検討をするようにしましょう。
また、ご夫婦でペアローンにすると、ご夫婦それぞれで住宅ローン控除の適用を受けることもできます。借入方法なども検討をする必要があります。
3-2-2 控除を受けるための手続き
住宅ローン控除の適用を受ける初年度は必ず確定申告をする必要があります。2年目以降は年末調整で適用を受けることが可能です。
年末調整とは?
会社が、1年分の給与と各種控除の情報をもとに、毎月の源泉徴収(前払いしていた所得税)を清算し、税額を正しく調整する手続きです。
つまり、1年間の税金の清算を会社が代わりにやってくれる仕組みです。
そのため、収入が給与だけの人などは、原則として確定申告は不要になります(※医療費控除やふるさと納税の確定申告、複数社から給与がある等は除く)。
これにより、ほとんどの従業員は確定申告をする必要がありませんし、税務署も受け付ける確定申告の数が少なくなります。
~年末調整を飲み会の清算で考えてみる~
幹事が事前に1人5,000円ずつ集金していましたが、実際の会計はクーポン適用で1人4,800円になりました。そのため、幹事が参加者全員に差額200円を返金して清算しました。
年末調整に当てはめると…
・ 5,000円集金 → 毎月の給料から見込みで多めに引く(源泉徴収)
・ クーポン適用 → 保険料控除・配偶者控除などをまとめて反映
・ 幹事が清算 → 会社が年末に正しい税額を再計算
・ 200円返金 → 払いすぎた税金の還付
→ 参加者(従業員)一人ひとりがレジで会計(確定申告)しなくても、正しい金額の支払(納税)になります。
※年末調整により控除を受けることができる規定は、確定申告でも適用を受けることができます。
勤務先の会社に資料の提出などが間に合わず、年末調整で控除してもらえなかった場合などは確定申告を行いましょう。
3-3 新NISAとiDeCo ★★★★☆(制度の違いと使い分け方)
新NISA=将来の運用益に税金がかからない制度(利益・配当・売却益が非課税)。
iDeCo=拠出する掛金が「所得控除」になり、拠出した年の税金が軽くなる年金制度(60歳まで引き出し不可)。
3-3-1 新NISAとは?
新NISAは、投資により生まれた利益(配当や売却益など)を非課税にする制度です。通常、投資で得た利益には約20%の所得税等と住民税がかかります。(投資により生じた利益についての税率は基本的に一律です。)
NISA制度は改正により令和6年から投資できる金額の上限が増えるなど使い勝手が良くなりました。
“新”が付いているのは令和6年以降のNISA制度のことです。
年間上限:つみたて投資枠 120万円/成長投資枠 240万円(併用で年360万円まで)です。
非課税保有限度額は1,800万円(うち成長枠は1,200万円まで)です。
非課税期間は無期限、売却すると売却分の枠が翌年に復活します。

3-3-2 iDeCo(個人型確定拠出年金)とは?
iDeCoは、自分でつくる年金制度です。
給与の一部を将来の自分のために年金として積み立てます。
その積み立てのために拠出した掛金は、全額が控除(第1章の②所得控除)できます。
所得控除のため、所得が高く税率の高い人ほど効果が大きくなります。
なお、自分でつくる年金制度のため、拠出した掛金は原則として60歳までは引き出すことができません。
また、勤務先の年金制度により拠出できる掛金の上限が異なります。
令和7年の掛金限度額は次の通りです。掛金限度額は改正により頻繁に変更されているためご注意ください。
・企業型DCなし:月23,000円まで
・企業型DCあり:月20,000円まで
拠出した掛金は自分で選んだ運用商品で運用することになりますが、そこで生じた運用益は非課税になります。
60歳を超えて受取る際は、一時金受取だと退職所得控除、年金受取だと公的年金等控除が受けられ一定の金額までは税金がかかりません。
3-3-3 新NISAとiDeCoの違いのまとめと使い分け
新NISAとiDeCoの違いをまとめると以下の通りになります。

最も注意すべき点はiDeCoの引き出せる時期が60歳以降という点です。
節税にはなりますが、それ以上に掛金を拠出するため、毎月の手取額は減少します。
日々の生活資金が厳しい方や、教育費などにお金がたくさんかかる時期はおすすめできません。
将来に備え貯蓄する資金がある方は、単に銀行に預けておくよりも、iDeCoを活用して税制優遇を受けながら積み立てるのがよいでしょう。
新NISAも運用益が非課税となる制度のため、運用により利益が出ないとメリットがありません。
運用が損の場合は新NISAを活用しても税制のメリットは全くありませんし、資産が目減りしてしまいます。
運用は慎重に行いましょう。
生活費や教育費など流動性が必要な時期は新NISAに比重を置き、資金に余裕が出てきたら老後資金の確保のためにiDeCoの掛金を増額するというのが無理ない活用方法だと思います。
~新NISAとiDeCoをダイエットで考えてみる~
皆さんは、ジム通いをしたことがありますか?
脂肪を燃焼するためには、ランニングなどの有酸素運動も効果的ですが、筋トレをして筋力をUPすることで代謝を上げることも効果的といわれています。
新NISAとiDeCoの違いは筋トレとランニングの違いに似ています。
・新NISAは筋トレ
→すぐには変化が見えにくいけれど、続けるほど代謝(お金を増やす力)が上がります。
将来、放っておいても太りにくい(税金を取られにくい)体質(家計)ができます。
・iDeCoはランニング
→やればすぐに脂肪(税金)が減り、成果が出るのも早いです。
しかし、長く続けないとすぐに戻ってしまいます。
これは、どちらか一方ではなく合わせて行うことで効果が上がるでしょう。
筋トレをして代謝を上げながら、時間や体力の余裕に応じてランニングをすることが大事です。
両方を上手く組み合わせて、健康で強い家計体質を作りましょう!!
3-3-4 新NISAとiDeCoを受けるための手続き
新NISAについては、証券会社や銀行でNISA専用口座を開設し、その口座で投資や運用を行えば自動的に非課税として取り扱われます。
iDeCoについては、年末調整で控除することができます。
毎年10月ごろに国民年金基金連合会から受け取る「小規模企業共済等掛金払込証明書」を会社に提出して年末調整で精算してもらうようにしましょう。
3-4 社会保険料控除 ★★★★☆(家族分も忘れずに)
社会保険料は、健康保険料や厚生年金保険料などが該当します。
ご自身の社会保険料だけでなく、家族の分も控除できる場合がありますので控除をうまく使うことで税金を抑えることができます。
3-4-1 社会保険料控除とは
その年に支払った社会保険料を、所得から差し引ける(所得控除)制度です。
会社員なら、給与から天引きされる健康保険料・厚生年金保険料などが自動的に対象になります。
3-4-2 家族分も控除できる(生計一親族)
自分の分だけでなく、生計一親族分を払っている場合は、社会保険料控除に含められます。
※「生計一」とは、同居が原則ですが、仕送り等で家計を一体で賄っていれば同居でなくても該当します。
例:大学生の子どもの国民年金保険料、配偶者の国民年金保険料や介護保険料など
3-4-3 いちばん大事:払った人の控除になる!!
社会保険料控除は実際の支払者から差し引かれます。
妻の年金から天引きや妻の口座から引落しされている場合は、妻が支払者となり妻の控除となります。
したがって、夫から控除することができません。
夫から控除するためには、夫の口座からの引落し、もしくは、現金払いにする必要があります。
(給与から天引される社会保険料などは基本的に支払方法を変更することができません。)
社会保険料控除は所得控除のため、税率の高い人から適用を受けた方が有利です。
奥様の税率が低い(若しくは税金が発生しない)のであれば、ご主人から控除した方が世帯全体では有利になります。
3-4-4 控除を受けるための手続き
年末調整で控除することができます。
「社会保険料控除証明書」や「領収書・口座振替控えなど」を会社に提出して年末調整で清算してもらうようにしましょう。
3-5 医療費控除・セルフメディケーション税制 ★★★☆☆(狙える年にまとめて使う)
医療費控除は、医療費の負担が多い年に税金の優遇が受けられる制度です。
医療費を同じ年にまとめることで税金を抑えられる場合があります。
3-5-1 医療費控除とは?
1年間(1月〜12月)に支払った医療費が多い年に、所得から差し引ける所得控除(200万円限度)です。
自分や家族(生計を一にしている配偶者・子ども・親など)の医療費を合計して、10万円(所得が200万円未満の場合は所得の5%)を超えた分が控除の対象になります。
なお、医療費の負担が多い場合に差し引ける制度のため、入院給付金など補填されたものは除く必要があります。
3-5-2 対象になる医療費
対象になる医療費は次のような治療目的の支出です。
・病院・歯科での診療費・治療費
・処方箋による薬代
・通院のための交通費(公共交通機関分)
・入院費・部屋代・食事代(自己負担分)
・出産費用(分娩料・入院費など)
・整骨院・整体(治療目的のものに限る)
美容目的や予防目的の支出(美容整形・サプリ・予防接種など)は対象外です。
あくまで『治療のために支出』したものが対象です。
3-5-3 控除を受けるための手続き
医療費控除は年末調整では対応できません。
控除を受けるためには確定申告が必要です。
なお、医療費の領収書などは、税務署への提出は不要ですが、保管をしておく必要があります。
適用を受ける年の領収証は大事に保管をしておきましょう。
3-5-4 よくある誤解と効率的に使う方法
医療費控除は、10万円超えたらすべて控除できるわけではありません。
年間の医療費合計が11万円の場合、控除できるのは11万円ではなく1万円(11万円-10万円)だけです。
そのため、医療費の支払が多い年はできる限りその年に医療費を集めることで有利になります。
たとえば、入院や出産などがあり、今年すでに11万円の医療費の支払いがあったとします。そして、歯医者で20万円のインプラント治療を勧められました。
急いで今年中にインプラント治療をするのとスケジュールに無理がない翌年に行うのとどちらが良いでしょうか?
(翌年、医療費がかからない前提で考えます。)
・今年インプラント治療受けた場合
今年 医療費31万円 → 控除21万円
翌年 医療費 0 → 控除0 控除合計 21万円
・翌年インプラント治療を受けた場合
今年 医療費11万円 → 控除1万円
翌年 医療費20万円 → 控除10万円 控除合計 11万円
このように、今回のケースでは今年治療を受けた方が、控除額が10万円多くなります。
医療費の支払を調整することは難しいですが、年末年始に必要な通院や歯医者など多少の調整ができるものもあると思います。
可能な限り、医療費の支払が多くなる年に医療費の支払いをまとめることで控除を多く取りましょう。
ただし、医療費控除の上限は200万円になっていますのでご注意ください。
また、医療費控除は生計一親族の分を合計できます。また、医療費控除は所得控除です。
そのため、所得の高い人から控除をした方が有利になります。ご夫婦共働きの場合は、所得の高い方から控除をするようにしましょう。
なお、社会保険料と同じく、実際の負担者からの控除となりますのでご注意ください。
3-5-5 セルフメディケーション税制の検討も
医療費控除の代わりに、「セルフメディケーション税制」を使う方法もあります。
セルフメディケーション税制とは、市販薬(スイッチOTC医薬品)を12,000円以上購入した場合にその超えた金額(88,000円限度)を所得から差し引ける所得控除です。
考え方は医療費控除と同様です。
ただし、医療費控除と併用して適用することはできませんのでご注意ください。
また、セルフメディケーション税制を使う場合は、健康診査など「健康の保持増進及び疾病予防に関する一定の取組」を行っている必要があります。
3-6 配偶者控除・配偶者特別控除 ★★★☆☆(“壁”を意識して上手に調整)
配偶者控除・配偶者特別控除は、適用の可否や控除金額について、細かく所得基準が設けられています。
この基準(壁)を確認し、控除を有効に使うことが大事です。
3-6-1 配偶者控除・配偶者特別控除とは?
配偶者控除・配偶者特別控除は、所得が少ない配偶者(主に専業主婦・主夫など)を扶養している人の税金を軽くする制度です。
配偶者控除は、配偶者の所得が58万円以下(給与収入で123万円以下)であれば、配偶者控除を受けることができます。
配偶者の給与収入が123万円を超えると、次の「配偶者特別控除」に切り替わります。
配偶者特別控除は給与収入が201万5,999円までは適用されますが、控除額が段階的に減額されます。
なお、いずれの規定も適用を受ける人(扶養する人)の所得が1,000万円(給与収入だと1,195万円:介護・子育て世帯の場合は1,210万円)を超える場合は適用できません。
※介護・子育て世帯の場合は、表上の(本人の年収)の金額に15万円を加算してください。
給与収入が一定の金額を超えても、控除額は段階的に減少されるため、急に税負担が増えることはありません。しかし、頑張って収入を増やしても自身の税金が発生するだけでなく、配偶者の税金も増えることになります。
また、注意が必要なのが社会保険料です。
給与収入が130万円(勤務先に規模などよっては106万円)以上になると、社会保険の扶養から外れ自分で保険料を負担する必要が生じ、手取りが大きく減ることもあります。
万が一、社会保険の扶養から外れてしまった場合は、「3-4社会保険料控除」で紹介した通り、所得の高い人(税率の高い人)から控除を受けるように準備をしておきましょう。
3-6-2 配偶者控除・配偶者特別控除の適用を受けるための手続き
年末調整で控除することが可能です。
会社に配偶者の年収見込額を申告することで、会社が控除額を算出し年末調整してくれます。
3-7 扶養控除・特定親族特別控除 ★★★☆☆(子ども・親の扶養を見直す)
扶養控除・特定親族特別控除は、配偶者を除いた家族(子ども・両親・祖父母など)が対象となります。
配偶者・配偶者特別控除と同様にその家族の所得に応じて適用の可否や控除金額について所得基準が設けられています。
また、その家族の年齢によっても控除できる金額が異なります。
※年齢はその年の12月31日現在の年齢です。
3-7-1 扶養控除・特定親族特別控除とは?
扶養控除は、一緒に生活している家族(生計を一にする親族)の所得が少ない場合に、扶養している人の税金を軽くする制度です。
その家族の所得が58万円以下(給与収入で123万円以下)であれば、扶養控除を受けることができます。
ただし、児童手当が支給されるため16歳未満の子どもは対象外となります。また、児童手当の拡充により16歳以上19歳未満は控除額の縮小が予定されています。
※直系尊属とは、父、母、祖父母などが該当します。
なお、19歳以上23歳未満は配偶者控除と同じように給与収入が123万円を超えると、「特定親族特別控除」に切り替わります。

特定親族特別控除は、令和7年以降から適用される規定で給与収入が一定の金額を超えた場合、急に扶養している人の税負担が上がるのを避けるために設けられました。
配偶者特別控除と同じく、段階的に控除額が減額されるため、急に税負担が増えることはありません。しかし、頑張って給与収入を増やしても自身の税金が発生するだけでなく、扶養している人の税金の負担も増えることになります。
また、誰から控除を受けるか選ぶことも必要です。
たとえば、両親が共働きで16歳の子どもがいる場合、両親ともに扶養控除を受けることはできません。扶養控除が受けられるのは父、母どちらか一方のみになります。
では、父と母どちらから扶養控除を受けた方が良いのでしょうか??
扶養控除は、所得控除になります。税率を乗じる前の控除ですので税率の高い人(所得の高い人)から控除した方が有利になります。
したがって、共働きの場合は、所得の高い方から扶養控除の適用を受けるようにしましょう。
3-7-4 扶養控除・特定親族特別控除の適用を受けるための手続き
年末調整で控除することが可能です。
会社に扶養親族の生年月日や年収見込額を申告することで、会社が控除額を算出し年末調整してくれます。
~○○万円の壁を整理してみた~
年収には、税金や社会保険の取り扱いが変わる境目(いわゆる「壁」)がいくつかあります。制度ごとに壁の年収が異なるため分かりづらいのですが、要点をまとめます。
注意したい主な壁
・社会保険の負担の壁 106万円もしくは130万円(勤務先の規模などにより異なる)
※ 加入した月以降の毎月保険料が発生します。
19歳以上23歳未満は150万円の特例があります。
・扶養控除の適用の壁 123万円(特定親族特別控除に切り替わる19歳以上23歳未満以外)
※ 超えると一般の扶養控除は適用できなくなります。
23歳の子どもが壁を1万円超えたことで、親の税金が10万円増えるということがおきます。
あまり気にしなくていい壁
・住民税・所得税がかかる壁 110万円と160万円(各種控除や扶養している親族がいない場合)
※ 壁を越えても、税金がかかるのは「超えた部分」に対してのみです。
そのため、壁を越えたことにより超える前よりも手取りが減るということはありません。
なお、住民税がかかる壁の金額については、住んでいる地域により多少異なります。
・上記以外の壁
※ 配偶者特別控除や特定親族特別控除に「切り替わる」「段階的に縮小」「適用がなくなる」もので壁を超えることで急に税負担が増えるというものではありません。

3-8 生命保険料控除・地震保険料控除 ★★★☆☆(小さな積み重ねが効く控除)
控除額は大きくありませんが、毎年きっちり使えば10年で確かな差になります。
年末調整で控除できるため、大きな手間なく効果が得られます。
必要な保険に加入しつつ、税金もしっかり抑えるのが賢い選び方です。
3-8-1 生命保険料控除とは?
生命保険や個人年金保険などに加入している人が、1年間に支払った保険料の一部を所得から差し引ける(所得控除)制度です。
控除額は大きくありませんが、毎年使えるので、長く続けると意外に大きな効果になります。
3-8-2 控除の種類と上限額(平成24年以降契約の新制度の場合)
生命保険料控除の区分と上限は次のとおり(所得税/住民税で上限が異なります)。
※令和8年は、23歳未満の扶養親族がいる場合は6万円になります。
※支払保険料がそのまま丸ごと控除されるわけではありません。区分ごとに定められた算式で計算した額が控除になります。
年間8万円超の保険料で、その区分の所得税の上限4万円に到達します(住民税は5.6万円超で上限2.8万円)。

3-8-3 保険の種類による効果の違い(加入の検討)
保険料控除は「支払った金額」が対象になるため、掛け捨て保険でも節税効果はあります。
ただし、税金は抑えられますが、実際に保険料を払うので手取りは減少します。
一方で、養老保険や個人年金保険な積立型(貯蓄性保険)であれば、
「加入時に保険料控除で節税」
「将来、保険金の給付が受けられる」
とトータルとして手取りがプラスになる場合もあります。
どんな保険でも、まずは「必要な保障を備える」ことが第一です。
そのうえで、保険料控除という“おまけの節税”も上手に活用すれば、保障と節税の両方の効果が得られます。
上限は小さくても、毎年欠かさず使い続ければ長い目で家計に確かな差が生まれます。
3-8-4 地震保険料控除も忘れずに
自宅や家財の地震リスクに備える保険が対象(火災保険のみは対象外)です。
所得税の控除額は、支払った保険料の金額で上限が5万円です。住民税の控除額は、支払った保険料の1/2の金額で上限が2.5万円です。
地震保険料を支払っている場合は、忘れずに所得控除を受けましょう。
3-8-5 控除を受けるための手続き
年末調整で控除することができます。
毎年10月ごろに保険会社から受け取る「生命保険料控除証明書」や「地震保険料控除証明書」などを会社に提出して年末調整で清算してもらうようにしましょう。
3-9 不動産投資による節税 ★★☆☆☆(“節税のため”は非推奨/投資として成立が大前提)
不動産投資をすると「節税になる」と聞いたことがある方も多いでしょう。
たしかに、うまく活用すれば税金の負担を軽くできます。
ただし、節税だけを目的に不動産投資を始めるのはおすすめできません!
3-9-1 なぜ不動産投資をすることで節税になるのか?
理由は、不動産投資による「税金計算上の赤字」を給与所得と相殺することができるからです。
つまり、不動産投資が赤字になればその分の税金が減ります。
ここで重要なのは、「税金計算上の赤字」ということです。
税金計算上の赤字ではなく、実際に赤字になっている場合も給与所得と相殺して税金が減りますが、不動産投資の赤字を補填する必要があるため手取りも減ります。
では、税金計算上の赤字とはどういうことでしょうか?
代表的な仕組みは「減価償却費」という税金計算の方法によるものです。
「減価償却費」とは、購入した建物などの購入代金を数年から数十年かけて毎年少しずつ費用にしていく税金の計算方法です。費用化する年数は建物の構造や築年数などにより異なります。
たとえば、1,800万円の建物を20年かけて減価償却する場合は、
「1,800万円÷20年=年90万円」
が減価償却費として費用になります。
たとえ、建物の市場価値が変らなくてもこの90万円は費用とすることができます。
つまり、一切、損をしていないのにもかかわらず毎年90万円の費用を作ることができるのです。
この費用を含めて赤字になっているのが、税金計算上の赤字です。
では、この税金計算上の赤字は最後どうなるのでしょうか??
結論は、売却した時に清算されます。
先ほどの建物を15年経過後に1,800万円で売却したとします。
購入代金と同じでも、税金の計算上は売却益が発生します。
売却代金:1,800万円
取得費 :450万円 1,800万円(購入代金)-1,350万円(減価償却費累計額)
売却益 :1,350万円
不動産の売却益は、基本的に一律で5年超保有している場合は約20%(所得税等と住民税)です。
つまり、売却益の1,350万円には、約20%である約270万円の所得税等と住民税がかかります。
最後に、購入から売却までの全体を確認してみます。
なお、減価償却費以外の諸費用と賃料収入が同額で、減価償却費がそのまま毎年の不動産投資の赤字になっていたとします。
また、この不動産投資をした方が、給与収入の高い方で毎年の所得税等と住民税の最高税率(その方が適用される一番高い税率区分)が約50%(所得税等が約40%、住民税が10%)だったとします。
そうすると、15年間で約675万円(1,350万円×約50%)の所得税等と住民税が減額されます。
売却益にかかる所得税等と住民税が約270万円(1,350万円×約20%)なので、
差額である約405万円について所得税等と住民税の税負担が軽減されたことになります。
3-9-2 不動産投資をする場合は細心の注意を
先ほどの例は、不動産の価格が下がらず、不動産の賃料と諸経費が同額だった場合(つまり、不動産投資で損をしていない場合)です。
不動産投資は、借入利息の上昇や入居者が決まらない空室リスク、災害による不動産の損害、価額の下落などさまざまなリスクがあります。
そのため、節税のためだけに不動産投資を行うのはおすすめできません。
もちろん、投資で利益がでれば、その分の税金も増えますが、手取りも増えます。
節税のためだけでなく、投資としてやるべきかしっかり検討をしたうえで判断をしましょう。
3-9-3 “似た仕組み”の節税にも同じ注意
不動産に限らず、同様の“節税スキーム”は世の中にたくさんあります。
・税金は軽くなっても「投資全体はマイナス」にならないか??
・大事な資金の投資先として問題ないか?
投資をする場合は、よく検討をしてください。
3-9-4 手続き
不動産投資の場合は、確定申告をする必要があります。
家賃などの賃料収入や固定資産税、管理費、損害保険料、減価償却費などの経費を計算して申告をする必要があります。
不動産投資が赤字の場合は、確定申告をすることで給与所得と相殺することができます。
第4章 まとめ
いかがでしたか?
自分に合った制度について選択し、仕組み化してしまえば毎年の手取りを継続的に改善できるでしょう。
1年当たりの節税額が大きくなくても毎年続けば大きな効果を得ることができます。
最初は難しく実行するのに抵抗があると思いますが、一度やってしまえばそれ以降はそこまで負担なく実行することができると思います。
継続的に効果を得ることが大事なので1つでも2つでも今年中に実行しましょう!!
12の対策のおさらい
①ふるさと納税(自己負担2,000円で翌年の住民税等↓)
②住宅ローン控除(初年度は申告必須/年残高×0.7% 等)
③新NISA(将来の運用益が非課税/長期前提)
④iDeCo(今年の所得控除・60歳まで原則引出不可)
⑤社会保険料控除〈家族分含む〉(支払額全額が所得控除)
⑥医療費控除 or ⑦セルフメディケーション(同一年は選択適用)
⑧配偶者控除・配偶者特別控除(配偶者収入に応じて段階縮小)
⑨扶養控除・特定親族特別控除(19〜22歳は段階縮小)
⑩生命保険料控除 + ⑪地震保険料控除(別枠で併用可)
⑫不動産投資による節税(赤字通算/投資として成立が大前提)
最後までお読みいただきありがとうございます。
この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。
なお、この記事は令和7年10月現在の法令に基づき記載をしています。また、本記事は一般的な情報提供であり、個別の判断は専門家へご相談ください。


