
アメリカに住んでいた親が、現地で亡くなった——そんな知らせを受けたとき、
葬儀などはひと段落したものの、「親の遺産はどう手続きを進めればいいのか?」と悩まれる方は多くいらっしゃいます。
特に、
日本とアメリカのどちらの法律に従うべきなのか?
アメリカで再婚していた場合、相続の扱いはどうなるのか?
こうした疑問が、次々と出てくるはずです。
実は、アメリカでは相続に関わるルールは州法によって定められており、州ごとに内容が大きく異なります。
なぜ大きく異なるのかというと、アメリカは建国時に13の州が独立国のような状態で集まったため、
「家族・財産・不動産など“生活に関わるルール”は州が決める」
「国防や外交など“国家としての役割”だけを連邦政府が担当する」
という構造で成り立ったためです。
この原則が今も続いているため、相続も州ごとにまったく違う仕組みが存在しているのです。
そのため、アメリカの法律に従う場合は
“どの州の法律が適用されるのか” までが重要になります。
この記事では、
・どの法律(どの州法)が適用されるのか
・主な州(カリフォルニア・ニューヨーク・ハワイ)の相続順位と取り分
・日本の相続との違い、注意点
をわかりやすく整理し、遺産手続きを進めるための最初の道しるべとして解説していきます。
まずは、この記事を参考に、状況を整理しながら、落ち着いて相続手続きを進めていきましょう。
【当記事は2026年1月1日時点の法令に基づき作成しております。】
目次
第1章 アメリカで相続順位を考える場合、法律が適用される国を確定する
国によって法律が異なるため、アメリカなど海外が関係する相続の場合、どこの法律が適用されるのかを確定させる必要があります。
1-1 アメリカで相続順位を確定させるには、まず準拠法を確定させる
まず、相続順位を確定するためには、準拠法を確定させなければなりません。
<日本の法律>
日本では、「相続は、被相続人の本国法による」と規定しています。(通則法第36条)
そのため、被相続人(亡くなった人)の国籍のある国の法律を適用することになっています。
| 亡くなった方が日本国籍の場合 | 日本法を適用 |
| 亡くなった方がアメリカ国籍の場合 | アメリカ法を適用 |
<アメリカの法律>
アメリカは日本と異なり、資産の種類によって適用する法律が異なります。
| 不動産 | その不動産がある州(又は国)の法律 |
| 動産や金融資産 | 亡くなった人の最終的なドミサイル(Domicile)がある州(又は国)の法律 |
※ドミサイルとは、その人の固定的な本拠地で、仮にそこを離れても戻る意思を持っている場所のことを言います。日本でいう住所や居所地とは異なる考え方です。
1-2 ケース別
➀ アメリカで亡くなったアメリカ人が所有していた日本の不動産
このケースを考えると
日本の考え方だと国籍で判断するため『アメリカ国籍だからアメリカ法(州法)を適用』
アメリカの考え方だと不動産の所在地で判断するため『不動産が日本にあるから日本法を適用』
と異なることになります。
実は、この場合、日本の法律に従うことになっています。(法律用語で反致といいます。)
通則法第41条に「当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。」と規定されています。
つまり、
日本の原則 → アメリカ法に従え (当事者の本国法によるべき場合において)
アメリカの原則 → 日本法に従え (その国の法に従えば日本法によるべきときは)
この場合は、日本法によると定めています。 (日本法による。)
② 日本人(ドミサイルはアメリカ)が所有していたアメリカの金融資産
このケースも日本とアメリカで判断基準が異なります。
日本の考え方だと国籍で判断するため『日本国籍だから日本法を適用』
アメリカの考え方だとドミサイルで判断するため『アメリカ法を適用』
この場合は、アメリカの法律に基づき手続きをすることにならざるを得ないと考えられます。
なぜなら、アメリカの金融機関では日本の法律に従って手続きをしてもらえない可能性が高いためです。
実際に手続きを進めるにあたっては国際相続に精通する現地の専門家に確認をする必要があります。
1-3 分け方が確定している財産
州法に規定されている相続順位や取り分などを適用する前に、分け方が確定している場合があります。
具体的には、次の通りです。
1-3-1 遺言書(Will)がある場合
日本でも同様ですが、有効な遺言書がある場合は、その内容に従って財産を分けます。
1-3-2 受取人の指定(POD、TODR、TODD)
所有者が死亡したときに、財産を受け取る人をあらかじめ指定しておく制度です。
・POD(Payable on Death)は銀行口座の受取人指定
・TODR(Transfer on Death Registration)は証券の口座の受取人指定
・TODD(Transfer on Death Deed)は不動産の死亡時譲渡証書
1-3-3 ジョイント・アカウント、ジョイント・テナンシー
複数の人が共同で財産を所有しておくことで、共同所有者のうちの一人が死亡した場合、その持分が自動的に生存する共同所有者に移転します。
・ジョイント・アカウント:共同名義の銀行口座
・ジョイント・テナンシー:不動産などの共同所有
1-3-4 リビングトラスト(生前信託)
信託契約で財産の管理・承継方法(誰に承継するかを含め)を指定しておく制度です。
1-3-5 生命保険や退職口座(401K、IRAなど)
生命保険や退職口座については契約で受取人を指定します。
これらの財産に該当しない場合には、州ごとに定められた法律に基づいて財産を分けることになります。
次章では主な州の財産の分け方について確認をしていきます。
第2章 主な州の相続順位の比較
冒頭で記載した通り、アメリカでは相続に関して州ごとに法律を定めているため、州ごとに相続順位や配偶者の取り分などが大きく異なります。
今回は、日本人に関係することの多いカリフォルニア、ニューヨーク、ハワイの3つの州について確認をします。
2-1 カリフォルニア州
<配偶者がいる場合>
カリフォルニア州は、コミュニティ財産という考え方があります。
コミュニティ財産とは、婚姻期間中に夫婦で築いた財産で夫婦共有財産と考えます。
夫婦共有の財産のため、コミュニティ財産はすべて配偶者が取得することになります。
そのため、配偶者がいる場合は、まず、コミュニティ財産とコミュニティ財産以外の財産(特有財産:結婚前から保有している財産や相続や贈与で取得した財産など)に分ける必要があります。
コミュニティ財産の分け方
すべて配偶者(遺言等がない場合)
特有財産の分け方
ケース1:配偶者+子ども1人
→ 配偶者1/2、子1/2
ケース2:配偶者+子ども2人以上
→ 配偶者1/3、子ども全体で2/3
ケース3:配偶者+子なし+親あり
→ 配偶者1/2、親1/2
ケース4:配偶者+子なし+親なし+兄弟姉妹あり
→ 配偶者1/2、兄弟姉妹1/2
ケース5:配偶者のみ(子・親・兄弟姉妹なし)
→ 配偶者100%
<配偶者がいない場合>
配偶者がいない場合はコミュニティ財産と特有財産にわける必要がありません。
すべての財産について、以下の順番で相続することになります。
①子ども→②親→③兄弟姉妹→④祖父母→⑤祖父母の子孫(おじおばやいとこ)→⑥亡くなった配偶者に子どもがいる場合はその子ども
2-2 ニューヨーク州
ニューヨーク州の場合は、コミュニティ財産という考え方はありません。
そのため、亡くなった方の財産すべてについて次の割合で相続することになります。
| 配偶者 | 子ども | 親 | 兄弟姉妹 | |
| ケース1 | 5万ドル+ 残りの1/2 | 残りの1/2 | 0 | 0 |
| ケース2 | 100% | 不存在の場合 | 0 | 0 |
| ケース3 | 不存在の場合 | 100% | 0 | 0 |
| ケース4 | 不存在の場合 | 不存在の場合 | 100% | 0 |
| ケース5 | 不存在の場合 | 不存在の場合 | 不存在の場合 | 100% |
2-3 ハワイ州
<配偶者がいる場合>
ハワイ州にもコミュニティ財産という考え方はありませんが、基本的に配偶者が財産を相続することになります。
そのため、子どもがいても基本的にすべて配偶者が取得することになります。
ケース1:配偶者+子なし+親なし
→ すべて配偶者
ケース2:配偶者+子あり
→ すべて配偶者
ケース3:配偶者+子なし+親あり
→ 配偶者40万ドルと残りの3/4、親は残りの1/4
ケース4:配偶者+子あり+被相続人に配偶者以外との子どもがいる
→ 配偶者22万ドルと残りの1/2、その子どもが残りの1/2
ケース5:配偶者+子あり+配偶者に被相続人以外との子どもがいる
→ 配偶者33万ドルと残りの1/2、被相続人の子どもが残りの1/2
<配偶者がいない場合>
配偶者がいない場合は、以下の順番で相続することになります。
子ども→②親→③兄弟姉妹や甥姪→④祖父母の子孫(おじおばやいとこ)
このように州によって相続の順番や分け方が大きく異なっています。
そのため、まずはどこの法律が適用されるのかを明確にし、その法律に精通した専門家に依頼をする必要があります。
また、亡くなった方若しくは相続人のいずれかが日本に居住している場合、基本的に日本国外にある財産についてもすべて日本の相続税の対象となります。
次章で専門家を選ぶ際のPointを確認します。
第3章 専門家を選ぶ際の4つのPoint
現地の制度や相場を理解し、日本と現地の専門家が連携できる体制を作ることが、海外相続をスムーズに進める最大のポイントです。特に、日本の専門家を経由して現地の専門家を探すことで手間やリスクを大きく減らせます。
Point1 日本で、海外相続にも精通した専門家に紹介を受けるのが一番のPoint
日本で海外相続にも精通した専門家に紹介を受けるのが一番スムーズです。この後の3つのPointもケアしてもらえます。
自分で現地の専門家を探すのは難しく、報酬や支払いタイミングの交渉も容易ではありません。相場感がないまま契約すると、通常より高い額になるリスクもあります。
国際相続に精通した日本の専門家(税理士や弁護士)であれば、現地の信頼できる専門家とネットワークを持っていることが多く、このようなリスクも軽減できます。また、日本の税務も必要な場合は、一緒に依頼できるメリットもあります。
Point2 州ごとに法律や手続きが違うので適用する法律に精通した専門家を探す
アメリカは州ごとに法律が違います。
どの州の法律が適用されるのか確認し、その州に精通した専門家を選ぶことが必要です。
カリフォルニア州の法律に基づいて手続きが必要なのにニューヨーク州専門の弁護士に依頼してしまうとスムーズに手続きが進まないことがあります。
Point3 報酬形態と相場を必ず確認する
現地専門家の報酬は、日本の専門家よりも高額になることが多いです。
それでも、現地での相場として高額なのか妥当なのかについては検討をする必要があります。
なお、主な報酬形態は『遺産総額の○%(例:2〜5%)』『タイムチャージ制(時間あたり○ドル)』のいずれかです。
Point4 報酬を支払うタイミングを確認する
海外の手続きは長期間になることが多いです。
亡くなった方の財産の名義変更手続きなどが完了するまでは、費用を一時的に相続人が立て替える必要があります。
契約によっては、報酬の一部を名義変更完了後に支払うことも可能です。支払時期によって相続人の資金負担が大きく変わるので注意が必要です。
現地の専門家選びは、費用や期間だけでなく、日本での税務との連携も欠かせません。
次の章では、日本の税務の注意点を取り上げます。
第4章 海外の手続きに長期間かかっても日本の相続税は待ってくれない
海外の手続きにどれだけ時間がかかっても、日本の相続税の期限は延びません。
日本の相続税の期限は「相続開始を知った日(通常は亡くなった日)の翌日から10か月以内」です。この期限内に相続税の申告と納税をする必要があります。
亡くなった方と相続人のいずれかでも日本に在住している場合、基本的に海外の財産も含めて日本の相続税の対象になります。
手続きが間に合わない場合は財産の分割が完了していないもの(未分割)として一度申告し納税をすることになります。
その後、手続きが完了し財産の分配が行われた後、必要に応じて申告書を修正し提出することになります。
なお、日本の相続税には各種特例が設けられておりますが、未分割の場合には適用できないものがあります。そのため、手続きが間に合わない場合にはそれらの特例を受けずに申告することになります。
第5章 アメリカに財産があり、お困りの場合はぜひ税理士法人マインライフへご相談ください
財産がアメリカにあり、どのような手続きをすればいいのかわからない・・・。
そのような難しいケースでも、最適なサポート体制が弊社には整っています。
税理士法人マインライフは、新宿・津田沼を拠点に、相続・国際相続の専門家として豊富な実績を持つ少数精鋭の税理士法人です。年間数百件の相続税申告を担当しており、経験豊富な税理士が必ず最初から最後まで対応します。

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第6章 まとめ
いかがでしたか?
アメリカが関係する相続では、「どこの国・どの州の法律が適用されるのか」を最初に押さえることが、いかに重要かイメージしていただけたのではないでしょうか。
このように、アメリカにお住まいのご家族やアメリカ所在の財産が関わる相続では、準拠法や州ごとの相続ルール、日本の相続税の期限、そして日本と現地専門家との連携を意識しながら、計画的に手続きを進めていくことが欠かせません。
この記事のまとめ
・アメリカが関係する相続では、まず「どこの国・どの州の法律(準拠法)が適用されるか」を確認する必要がある。日本法は国籍、アメリカ法は資産の種類やドミサイル(本拠地)によって適用される法律が変わる。
・遺言書、POD/TOD/TODD、ジョイント・アカウント、リビングトラスト、生命保険や401K・IRAなど、あらかじめ受取人や承継方法が指定されている財産は、その指定どおりに承継され、それ以外の財産について各州の相続順位・取り分が適用される。
・アメリカでは、州によっても配偶者や子ども、親、兄弟姉妹の相続順位や取り分が大きく異なるため、「どの州法が適用されるか」を明確にしたうえで、その州法に精通した現地専門家に依頼することが重要である。
・海外の手続きが長期化しても、日本の相続税の申告・納付期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)は延びず、亡くなった方または相続人のいずれかが日本に居住している場合は海外財産も含めて相続税の対象となる。手続きが間に合わない場合は未分割で一度申告し、後から修正することになり、一部特例が使えないこともある。
・国際相続を円滑に進めるには、海外にも精通した日本の税理士・弁護士を窓口にし、報酬の相場や支払時期も確認しながら、適用される州法に詳しい現地専門家と連携して進めることが大切。
海外に財産がある相続で「何から手をつければいいのかわからない…」という方は、一人で抱え込まず、ぜひ税理士法人マインライフへご相談ください。
※本記事における日本国外の情報は、一般に公表されている基本的な内容を平易に解説したものです。具体的な実務にあたっては現地専門家への確認が必要となります。



