相続税の国際二重課税とは?課税パターンと国ごとの違いを整理

久保 佑介
東京事務所長 / 代表社員 / 税理士久保 佑介
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海外口座、海外株式、海外不動産などをお持ちの方が亡くなった場合、「日本でも海外でも相続税がかかるのではないか」と不安に感じる方は多いです。

特に、海外赴任経験がある方や、現在も海外金融資産を保有している方は、相続発生後に初めて「海外財産も日本の相続税の対象になる可能性がある」と知るケースがあります。

ただし、海外財産があるからといって、必ず二重課税になるわけではありません。

海外相続で二重課税に該当するかを判断するための考え方を、具体例と国ごとの違いを交えて解説します。

【当記事は2026年1月1日時点の法令に基づき作成しております。】

「二重課税」専門家の3つの視点👉
・日本の相続税がかかるか
・海外でも相続税に相当する税金がかかるか
・その二重課税を外国税額控除などで調整できるか

第1章 海外相続で二重課税に該当するかを判断する

海外相続の二重課税は、「日本で課税されるか」「海外で課税されるか」「同じ種類の税金が重なっているか」の順番で確認します。

1-1 日本の相続税がかかるか(日本の相続税の課税範囲を確認する)

まず確認すべきことは、海外財産が日本の相続税の対象になるかどうかです。

日本の相続税では、相続人が日本に住所を有している場合など、一定の要件に該当すると、国内財産だけでなく海外財産も含めて「取得したすべての財産」が課税の対象になります。

たとえば、日本人である日本居住者が海外預金を相続した場合「海外にある財産だから日本の相続税は関係ない」とはならず、「取得したすべての財産」に日本の相続税がかかります。

日本の相続税がかかるかどうかを判断する際には、主に次の点を確認します。

・被相続人(亡くなった人)が相続時にどこに住んでいたか
・相続人が相続時にどこに住んでいるか
・被相続人と相続人の国籍
・過去10年以内の日本居住歴
・取得した財産が国内財産か国外財産か

【日本の相続税がかかる範囲の判定表】

日本の相続税がかかる財産の範囲の判定表

※1 外国人被相続人を除く
外国人被相続人…相続開始時に一定の在留資格を有するもの。
※2 一時居住者を除く
一時居住者…相続開始時に一定の在留資格を有する者で、相続開始前15年以内の国内居住期間の合計が10年以下であるもの。
※3 非居住被相続人の前提
非居住被相続人…相続開始前10年以内において、国内に住所を有していた期間中、継続して日本国籍がなかったもの。
特に日本居住の相続人が海外財産を取得する場合には、日本の相続税申告にその海外財産を含める必要があるかを早めに確認することが重要です。

1-2 海外でも相続税に相当する税金がかかるか

次に、海外側で相続税に相当する税金がかかる国であるかを確認します。
海外で課税されるかどうかは、国ごとに大きく異なります。相続税がある国もあれば、遺産税という形で課税する国もあり、相続税自体がない国もあります。

確認すべきポイントは次のとおりです。

・財産がどの国にあるか
・被相続人(亡くなった人)がその国の居住者または国籍保有者だったか
・相続人がその国の居住者か
・その国に相続税、遺産税などがあるか

たとえば米国では、相続に関するものとして「遺産税」があります。
米国遺産税は日本の相続税とは異なり、財産を遺す側である被相続人(亡くなった人)が納税義務者です。
被相続人(亡くなった人)が米国市民・米国居住者であるか、米国非居住者であるかにより税金の取扱いが異なります。
米国非居住者(日本居住)であっても、米国にある財産については米国遺産税の対象になります。
なお、州によっては連邦税以外の州税としての遺産税(相続税)が存在します。

一方で欧州については国ごとの確認が必要です。相続税はEUルールで決まるものではなく、各国ごとの情報を確認する必要があります。

また、国によっては、日本の相続税に相当する税金がない場合もあります。
シンガポール・中国・オーストラリア・ニュージーランドなどではそもそも相続税に相当する税金がありません。

つまり、海外相続では「海外財産があるか」だけでなく、「どの国に財産があるか」を国別に整理することが重要です。

1-3 二重課税を外国税額控除で調整できるか

相続税の外国税額控除とは、「海外財産」に対して日本と海外の両方で相続税がかかるときに、二重課税を調整するための制度です。(二重課税についての判断の基準は下記コラムをご参照ください。)

たとえば、イギリスにある財産に対して、日本の相続税とイギリスの相続税の両方がかかってしまう場合

【例】
日本に住んでいる方が、日本に5億円の財産、イギリスに5億円の財産がある状態で亡くなった。
相続人は日本に住んでいる子ども1人。
日本の相続税:全世界の財産(10億円)に対して日本の相続税約4.5億円が発生
イギリスの相続税:イギリス財産(5億円)に対してイギリスの相続税約2億円が発生

日本の相続税約4.5億円から、外国税額控除によってイギリスの相続税約2億円を差し引き、残りの約2.5億円を納めることとなります。

つまり、「海外財産」について2国間において重複して相続税がかかるケースでは、海外で支払った相続税を日本の相続税から差し引けるように外国税額控除を活用することが重要です。(一定の控除限度額があります。)

相続税の外国税額控除とは?制度概要と日本で適用する手続きの全体像

(コラム)👉二重課税に該当するか判断する基準
ここまで確認してきましたが「相続税の二重課税」は、日本の相続税と海外の相続税に相当する税が「海外財産」に重なって課税されるケースを指します。
なお、日本の相続税と海外のキャピタルゲイン課税が生じるケースは、日本と海外の二国間で課税はされますが、税の種類が異なり相続税の二重課税が生じているとは言えません。

相続税の二重課税に該当するかは、次のように整理できます。

つまり、海外で何らかの税金を払ったとしても、それが「相続税に相当する税」なのか、それとも所得税、登録税、印紙税なのかを区別する必要があります。
なお、連邦税と州税(州独自のもの)として遺産税(相続税)が存在する米国の場合には、国際間の二重課税が発生した場合にも外国税額控除の対象は連邦税に限られるケースなどがあるため留意が必要です。

第2章 【具体例】二重課税が発生するパターンを整理する

本章では具体的にどのようなケースにおいて相続税の二重課税が生じるのか確認していきます。
また、制度の異なる海外の国が関与することによる留意点についても確認していきます。

2-1 日本と海外で相続税が課税されるケースを確認する(具体例)

日本と海外で相続税が課税される典型例は、日本の相続税の対象になる国外財産について、財産がある国でも相続税に相当する税金が課税されるケースです。
そのほか日本の財産であっても被相続人(亡くなった人)の住所地などが海外である場合、その国のルールにより相続税に相当する税金が課税されるケースがあります。

【具体例1:日本居住者が米国財産を相続したケース】

日本居住者である日本人が米国財産を相続したケースの具体例

被相続人(亡くなった人):日本に住んでいる日本人
相続人:日本に住んでいる日本人
対象財産:米国財産
日本相続税:国外財産として相続税の課税対象になります。
米国遺産税:米国財産は遺産税(相続税)の課税対象になります。

【結果】同じ米国財産に対して二重課税が生じます。

 ※ 被相続人が日本人であるため日米相続税条約による特例計算があります。

専門家の視点👉 ~日米相続税条約~

2026年現在、被相続人が米国市民または米国居住者の場合の米国遺産税の基礎控除額は1,500万ドル(約22億5,000万円/1ドル=150円)となっています。
一方、被相続人が米国非居住者の場合の基礎控除額は6万ドル(900万円/1ドル=150円)となっています。
つまり、米国非居住者である日本人にとっては基礎控除の適用に大きな差があります。

日米相続税条約では、被相続人が米国非居住者であったとしても日本人である場合には、米国市民、米国居住者の基礎控除額を基準とした特例計算が認められています。

<特例計算の例>
米国非居住者である日本人
全世界にある財産:300万ドル(うち米国財産:100万ドル)

基礎控除額【1,500万ドル】×(米国財産【100万ドル】 ÷ 全世界の財産【300万ドル】)=500万ドル(7.5億円/1ドル=150円)

つまり米国では500万ドル(7.5億円/1ドル=150円)まで米国遺産税がかからないことになります。なお、この特例計算の適用を受けるには、米国遺産税の申告期限内に全世界財産を開示して申告し、日米相続税条約の適用をする必要があります。

【具体例2:日本居住者が米国市民から日本財産を相続したケース】

日本居住者が米国市民である被相続人から日本財産を相続したケースの具体例

被相続人(亡くなった人):米国市民
相続人:日本に住んでいる人
対象財産:日本財産
日本相続税:国内財産として相続税の課税対象になります。
米国遺産税:国外財産も遺産税(相続税)の課税対象になります。

【結果】同じ日本財産に対して二重課税が生じます。
※この二重課税は日本財産に対するものであるため、日本の外国税額控除(対象は国外財産)では調整できず、米国側での二重課税の調整の可否を確認する必要があります。

【具体例3:被相続人がイギリスの長期居住者であったケース】

イギリス、フランス、ドイツ、スペインなどに財産がある場合も、国ごとの相続税制度を確認する必要があります。
たとえばイギリスでは、イギリス財産のほか、被相続人が一定期間イギリス居住者(長期イギリス居住者:long-term UK resident)であった場合には全世界の財産が課税対象になり得ます。

日本居住者がイギリスから帰国(長期イギリス居住者に該当)した被相続人から日本財産を相続したケースの具体例

被相続人(亡くなった人):イギリスに20年住んでいた(その後日本に帰国し2年後に亡くなった)
相続人:日本に住んでいる人
対象財産:日本財産
日本相続税:国内財産として相続税の課税対象になります。
イギリス相続税:国外財産も相続税の課税対象になります。

【結果】同じ日本財産に対して二重課税が生じます。
※この二重課税も日本財産に対するものであるため、日本の外国税額控除では調整できず、イギリス側での調整措置の確認が必要です。
【理由】イギリス国内に財産はないが、long-term UK resident (長期イギリス居住者)に該当する。
よって全世界にある財産がイギリス相続税の課税の対象となります。

このように、海外側の課税範囲は「財産の所在地」だけでなく、「被相続人や相続人の居住地など」によって変わることがあります。

2-2 課税タイミングのズレによる留意点を確認する(具体例)

国際相続では、日本と海外で申告期限や手続きの進み方が異なるため、課税タイミングのズレにも注意が必要です。
日本の相続税申告は、原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。一方、海外では国によって相続税額が確定しない事情やそもそも申告期限が異なります。

【具体例1:日本の申告期限までに海外税額が確定しないケース】

海外相続では、現地の相続手続(プロベート)が長引き、日本の相続税申告期限である10か月以内に海外の相続税額が確定しないケースがあります。

特に米国・イギリスなどでは、被相続人(亡くなった人)の財産を正式に相続人へ移転するために、裁判所を通じた「プロベート(Probate)」手続が必要になる場合があります。

たとえば、米国不動産などを保有していたケースでは、次のような流れになることがあります。

被相続人(亡くなった人):日本居住の日本人
相続人:日本居住者
対象財産:米国不動産

①現地裁判所でプロベート開始

② 遺言書の有効性確認、相続人確認、遺産管理人などを任命

③ 現地弁護士・会計士による財産調査、財産評価を実施

④ 米国遺産税の申告・納税額が確定

⑤ 裁判所の許可後、財産分配

【結果】このようなケースでは、米国のプロベートだけで1年以上かかることもあります。

一方、日本の相続税申告期限は「10か月」です。
つまり、日本の申告期限の時点では、米国遺産税額が未確定という状況になることがあります。
この場合、日本の相続税申告では、仮に国際間の二重課税が生じると想定されていたとしても、プロベートが完了しておらず税額が未確定のため、外国税額控除の適用はできず、申告を行うことになります。

また、プロベート開始後は、裁判所の承認が得られるまで、対象資産は原則として凍結されることになります。
日本の相続税の計算に含めることとなった海外の財産につき自由に処分できないことは納税資金の確保の観点からも留意する必要があります。

その後、プロベートが完了し税額も確定した段階で、外国税額控除を適用した申告書を再提出(更正の請求手続き)し、還付を受けることを検討することとなります。

プロベートが必要な国では生前にプロベート回避を検討することが重要です。
(プロベートの詳細についてはこちらの記事をご参照ください)

【具体例2:海外の申告期限が日本と異なるケース】

海外相続では、日本と海外で申告期限が異なるため、外国税額控除の適用可否に注意が必要です。

日本の相続税申告期限は「相続開始を知った日の翌日から10か月以内」です。
一方、海外では国ごとに申告期限や延長制度があるなど日本とは異なります。

日本より海外の申告期限が長いケースは海外税額が日本の申告時点では未確定という状況がありえます。
二重課税が生じても海外税額が未確定では、外国税額控除の適用はできず、申告を行うことになります。

日本より申告期限が長くなるケースがある国

米国:遺産税申告の期限は、原則として死亡日から9か月以内です。
   ただし、期限前に申請を行うことで、6か月の延長が認められる場合があります。
   そのため、実務上は最大15か月程度まで申告期間が延びるケースがあります。
フランス:フランス国内で相続発生した場合は6か月以内に申告する必要があります。
     フランス国外で相続発生した場合は12か月以内に申告する必要があります。

フランス財産を保有していたケース

被相続人(亡くなった人):日本居住の日本人
相続人:日本居住者
対象財産:フランス財産

フランス相続税の申告手続きを期限内(12か月以内)ギリギリに完了させた。

【結果】日本の外国税額控除の適用には、日本の申告期限(10か月以内)までにフランスでの申告を完了させる必要があります。事例では日本の当初申告の際にはフランスとの二重課税を調整できません。

その後、フランスでの申告・納税が完了した段階で、更正の請求により外国税額控除の適用と還付を検討します。

第3章 国ごとの違いを整理する

海外相続では、国ごとに課税方式や手続きの進め方が異なるため、日本との違いを押さえておくことが重要です。

3-1 米国

米国の相続税は、基礎控除額の大きさと、国だけでなく州独自の遺産税が存在するケースがあることが特徴です。

「専門家の視点👉」での解説の通り、米国市民または米国居住者の場合基礎控除額は1,500万ドル(約22億5,000万円/1ドル=150円)です。米国非居住者であったとしても日本人である場合には、米国市民、米国居住者の基礎控除額を基準とした特例計算が認められています。
よって、そもそも米国遺産税がかからないケースも多いです。

なお、連邦税と州税としての遺産税(相続税)が米国には存在します。
日米相続税条約が対象とするのは連邦税であり、州税としての遺産税は条約の対象外です。
州税に日本の外国税額控除を適用できるかは取扱いが明確でない部分があるため、州税が課された場合には、日本の相続税と二重負担となるリスクも含めて個別に確認が必要です。

【2026年最新版】アメリカの相続税(遺産税)を徹底解説|日本との違い・二重課税の防ぎ方【プロが解説】

3-2 欧州

欧州は国ごとに相続税の仕組みが異なります。ここでは、フランスを例に確認します。
フランスの相続税は、相続人と被相続人(亡くなった人)の親族関係や取得財産の額に応じて税率が変わる累進税率が特徴です。
兄弟姉妹が相続する場合、課税額に応じて35%または45%の税率が適用されることがあります。
日本に比べて税負担が重くなるケースもあるので留意が必要です。

たとえば、フランス財産に日本とフランスの相続税が二重に課税された場合には外国税額控除が適用できます。
ただし外国税額控除には限度額があり、日本で海外財産に課される相続税の金額が限度になります。

相続財産の合計:1億円(日本7,000万円+フランス3,000万円)
日本の相続税:1,000万円
フランス相続税:400万円

➀【フランス相続税】 400万円
➁【フランス財産に係る日本相続税】 1,000万円 ×(3,000万円 ÷ 1億円)= 300万円
→控除できるのは少ない方の②300万円となります。

海外での税負担が重い場合には、日本の相続税計算では海外で課された税金の全額を控除できません。

3-3 相続税がない国の扱いを確認する

国によっては、日本の相続税に相当する税金がない場合もあります。
たとえば、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどでは、日本のような相続税はありません。

現地に相続税がない国では、日本と海外で相続税同士の二重課税は通常発生しません。
ただし、相続時または相続後の売却時にキャピタルゲイン課税が発生する場合があります。
また、現地に相続税がない場合でも、日本居住者が海外財産を相続する場合には、日本の相続税申告に含める必要があるかを確認することが重要です。

【徹底解剖】シンガポール移住と相続税のポイント

オーストラリアに相続税はある?日本との違いと課税ルールを徹底解説

中国の財産に相続税はかかる?日本在住者が確認すべき相続時の注意点

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第5章 まとめ

相続税の国際間での二重課税についてここまで確認してきました。

第1章では日本及び海外の二国間において相続税がそれぞれかかるか、また二重課税を外国税額控除で調整できるかをそれぞれ解説しました。
第2章では具体例でどのような場合に二重課税が発生するのか、また制度の異なる海外の国が関与することによる留意点を確認しました。
第3章では海外の国ごとの違いを整理しました。詳細は各国のコラムにて確認してみてください。

国際間をまたぐ相続については、日本と海外で二重課税が生じるケースが多々あります。また各国での制度やルールは異なります。
そこで大切になるのは日本と海外双方の制度に精通した税理士や現地専門家です。
手続きの漏れや課税リスクを回避するためにも専門家への相談が最善の方法になります。

 

※本記事における日本国外の情報は、一般に公表されている基本的な内容を平易に解説したものです。具体的な実務にあたっては現地専門家への確認が必要となります。

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